私の転換点 データサイエンス経営学部 土屋翔 准教授

2024年4月17日

"好きなこと"より"できること・やれること"を先に考える


 私の一番の『転換点』は、大学院生時代です。私が在籍していた大学院は、博士課程が前期と後期に分かれていました。前期はいわゆる修士課程で、後期が博士課程に対応します。私にとって特に大変だったのは、博士前期の期間でした。
 当時は失敗をすることが許されず、言葉使いをはじめとして仕草や書類などの体裁、形式、細部にわたるまで気を遣う必要がありました。この時代の私には、"好きなことをやる"、"好きな研究をする"などという判断基準はなく、いかに失敗をしないかを最優先事項として、"上手くできること"を徹底的に追求していました。換言すれば、感情を押し殺し、機械的に成功する可能性が高いことだけを選択して実行していました。仮に、今「その時は楽しかった?」と聞かれたとしたら、「大変だった」「つまらなかった」「苦しかった」と答えるのかもしれません。しかし、その時は好き嫌いといった感情はなく(押し殺していた?)、ただ"上手くやること"だけを考えていました。

 大変な時期ではありましたが、実はこの時の経験は、私の専門である経営学においても大変役立っています。経営自体は、経営学を学んでいなくても、できてしまう可能性があります。しかし、学問というプラットフォーム(言い換えれば抽象化)がなければ場当たり的な対応になり、新規事業、他業界への展開をはじめとして、自社の理念やビジョンなどを他人に伝えることが困難になります。いわば、唯我独尊的に感覚、感情で経営をしてしまうということです。私は、これまで感覚、感情で判断される側面もあった経営に対して、学問として"上手くやる"というアプローチをしています。感情抜きに"上手くやる"という私の大学院生時代の経験は、このアプローチと相性が良かったのです。もちろん、人間が行う営みゆえ、感情を抜きにすることは困難ですが、私の研究ステップでは感情抜きの理論を第一段階とし、そこに感情という第二段階を付け加えることとしています。つまり、理論と感情を区別し、相互作用の事象として理解することです。

 一般的に、「好きなことをやれ」、「好きなことを仕事にしろ」など、"好き軸"を中心に物事を選択するようにアドバイスを受けることが多いと思います。それ自体に問題はありませんが、"できる・やれる"軸でも物事を選択してほしいと思います。上手くいけば、私のケースのように、"できる・やれる"ことは"好き"なことになっていきます。

 なお、学生の頃は感情を押し殺してきたと述べましたが、実際には、私はおそらく一般的な人よりも感情的な人間だと思います。それゆえ、場当たり的な意思決定をしてきて後悔したこともあります。今は、"上手くやること"を大前提に意思決定をしています。と、カッコイイことを言っても、なんだかんだで感情は大いに入ってしまいます。もしかしたら、成長はしていないのかもしれません。しかし、そんな時、自分自身が機械ではなく人間なのだと実感し、安心します。結局、人間には感情があり、完全な機械にはなれないのです。


土屋翔 准教授



著者プロフィール

土屋翔 (つちや しょう)
准教授
データサイエンス経営学部
データサイエンス経営学科

博士(経営学)。専門分野は、組織論。2024年より現職。組織の持続性について研究し、最近は課題解決にAIを取り入れている。著書に『経営学概論:AIと学者が織り成す未来の教科書』(ホリエモン出版)、『経営組織・管理に関する一考察』(みらい)など。

※記事の内容、著者プロフィール等は2024年4月当時のものです。